世界的なベストセラー小説『ハリー・ポッター』シリーズの舞台版『ハリー・ポッターと呪いの子』(Harry Potter and the Cursed Child)は、2016年にロンドンで初演され、その後ブロードウェイや日本を含む世界各国で上演されてきた。しかし、その内容については賛否両論が激しく、特に「ひどい」「失望した」という声が少なくない。本記事では、なぜ『呪いの子』が批判されるのか、その理由を掘り下げていく。
1. ストーリーの矛盾とキャラクターの崩壊
ストーリーの矛盾とキャラクターの崩壊について解説します。
(1)原作とかけ離れたキャラクター描写
『ハリー・ポッター』シリーズのファンにとって、登場人物の性格や成長は非常に重要だ。しかし、『呪いの子』では、主要キャラクターの描写が原作と大きく異なり、違和感を覚える場面が多い。
- ハリー・ポッター
原作では勇気と優しさを兼ね備えた人物として描かれていたが、舞台版では「無神経で冷たい父親」として登場する。特に息子のアルバスに対する態度は、ファンから「これはハリーではない」と批判されるほど違和感があった。 - ハーマイオニー・グレンジャー
頭脳明晰で強い意志を持っていたハーマイオニーが、舞台版ではどこか平板なキャラクターに変わってしまっている。特に「別の時間軸」での描写は、原作の彼女とは大きく異なる。 - ドラコ・マルフォイ
かつての敵役だったドラコが「良い父親」として描かれる展開は意外性があったが、その変化に説得力がなく、唐突に感じる部分があった。
(2)タイムターナー(時間変換器)の乱用によるストーリーの破綻
『呪いの子』のストーリーは、タイムターナー(時間を遡る魔法の道具)を多用した複雑な時間移動が中心となっている。しかし、この設定には以下の問題がある。
- 原作のルールを無視している
原作『アズカバンの囚人』では、タイムターナーは「危険な道具」として厳重に管理され、不用意に過去を変えることの危険性が強調されていた。しかし、『呪いの子』では簡単に過去を変え、さらに「パラレルワールド」が大量に発生するなど、原作の設定を無視した展開になっている。 - ストーリーが複雑すぎる
時間移動が何度も繰り返されるため、観客・読者が混乱しやすく、「結局、何が本当のストーリーなのかわからない」という不満が多く寄せられた。
2. 新キャラクターへの不満
新キャラクターへの不満は以下のとおりです。
(1)アルバス・セブルス・ポッターのキャラクターが薄い
主人公の一人であるハリーの次男・アルバスは、「スリザリンに入ったポッター」として注目を集めるが、彼の性格描写はやや単調で、共感しづらい部分がある。特に「父親との確執」がメインテーマながら、その感情の深みが不足しているとの指摘がある。
(2)スコーピウス・マルフォイの存在意義
ドラコの息子・スコーピウスは、アルバスの親友として物語を牽引するが、彼の「実はヴォルデモートの子かもしれない」というサブプロットは、不必要にドラマチックに感じられ、ストーリーをさらに混乱させる一因となった。
3. ファンサービス的な展開の多さ
『呪いの子』には、過去のキャラクターや名シーンを再現する場面が多く、「ノスタルジアを狙っただけ」と批判されることがある。例えば、
- セドリック・ディゴリーのダークな転落
人気キャラクター・セドリックが「死の呪い」を使う悪役として登場するが、これはファンにとっては「キャラクターの冒涜」と受け取られた。 - ヴォルデモートとベラトリックスの「娘」デルフィ
ヴォルデモートに子供がいたという設定は、原作のテーマ(ヴォルデモートは愛を知らず、不死のみを追求した)と矛盾し、不自然に感じられた。
4. 演出の評価は分かれる
一方で、『呪いの子』の舞台演出に関しては高評価を得ている部分もある。
- 魔法の表現が革新的
舞台上で「魔法」をどのように表現するかは大きな課題だったが、照明、プロジェクションマッピング、特殊効果を駆使し、非常に印象的なシーンが多くある(例:ダメントールの登場シーン)。 - 役者の演技は高評価
特にハリーやドラコを演じた役者の演技は、脚本の課題を補うほどの力を見せた。
しかし、いくら演出が素晴らしくても、ストーリーそのものに問題があるという意見が根強く、これが「ひどい」と言われる最大の理由となっている。
5. ファンの反応と論争
『呪いの子』に対する評価は真っ二つに分かれており、SNSやレビューサイトでは激しい議論が繰り広げられた。
- 肯定的な意見
- 「新しい解釈で面白かった」
- 「舞台ならではの魔法表現が素晴らしい」
- 「親子のテーマに共感した」
- 批判的な意見
- 「ハリーのキャラクターが崩壊している」
- 「タイムパラドックスが多すぎてストーリーが破綻」
- 「原作の精神からかけ離れている」
特に、**「これは『ハリー・ポッター』の正史なのか?」**という疑問が多く、J.K.ローリングが「ストーリーを承認している」としながらも、実際の脚本は別の作家(ジャック・ソーン)が担当したため、完全な「正統続編」と見なすべきかどうか議論を呼んだ。
まとめ
『ハリー・ポッターと呪いの子』が「ひどい」と批判される理由は、主に以下の点に集約される。
- 原作のキャラクター設定を無視した展開
- 複雑すぎるタイムトラベルストーリー
- 新キャラクターの魅力不足
- 過剰なファンサービスによるストーリーの混乱
一方で、舞台としての技術的なクオリティは高いため、評価が分かれる作品となっている。『ハリー・ポッター』の世界観を愛するファンにとっては、「受け入れがたい続編」と感じる人も多いが、「舞台」という形式を楽しむ作品として割り切って観ることで、楽しめる部分もあるだろう。
最終的には、『呪いの子』は「ハリー・ポッターの正統な続編」というよりは、「スピンオフ的なエンターテインメント作品」と捉えるのが適切かもしれない。