成年後見制度は、認知症や精神障害、知的障害などにより判断能力が不十分な成年者を保護し、支援するための制度として2000年に導入されました。この制度は、本人の財産管理や身上監護を後見人が行うことで、本人の権利や利益を守ることを目的としています。しかし、制度が運用される中で、さまざまな問題が浮き彫りになってきました。特に「ひどい」と感じられる事例が報告されることも少なくありません。本記事では、成年後見制度の問題点とその改善策について考察します。
1. 成年後見制度の概要
成年後見制度は、判断能力が不十分な成年者を支援するための法的な仕組みです。主に以下の3つの類型があります。
- 後見:判断能力がほとんどない人に対して、後見人が全面的に支援を行う。
- 保佐:判断能力が著しく不十分な人に対して、保佐人が重要な法律行為について同意権や取消権を持つ。
- 補助:判断能力が不十分な人に対して、補助人が特定の法律行為について支援を行う。
これらの類型は、本人の判断能力の程度に応じて選ばれ、家庭裁判所が後見人を選任します。後見人は、本人の財産管理や契約行為、医療・介護に関する決定などを行います。
2. 成年後見制度の問題点
成年後見制度は、一見すると本人の利益を守るための理想的な制度に見えますが、実際の運用では以下のような問題が指摘されています。
2.1 後見人の権限が強すぎる
後見人は本人に代わって財産管理や法律行為を行うため、非常に強い権限を持っています。しかし、この権限が濫用されるケースが少なくありません。例えば、後見人が本人の財産を不当に使い込んだり、本人の意思を無視して医療や介護の決定を行ったりする事例が報告されています。特に、親族以外の第三者(司法書士や弁護士など)が後見人に選任された場合、本人や家族とのコミュニケーションが不足し、本人の意向が反映されないことがあります。
2.2 本人の意思尊重が不十分
成年後見制度の目的は、本人の権利や利益を守ることですが、実際には本人の意思が軽視されるケースが多々あります。例えば、本人が住み慣れた家に住み続けたいと希望していても、後見人が施設入所を強制したり、本人が望まない医療処置が行われたりすることがあります。これは、後見人が本人の意思を十分に把握していないことや、本人との信頼関係が築けていないことが原因です。
2.3 費用負担が重い
後見人には報酬が支払われますが、この費用は本人の財産から支払われるため、経済的負担が大きくなります。特に、専門職後見人(弁護士や司法書士)が選任された場合、月額数万円から十数万円の報酬が発生することがあります。これにより、本人の財産が目減りし、生活が困窮するケースもあります。
2.4 家庭裁判所の監督が不十分
後見人は家庭裁判所の監督下にありますが、実際には監督が形骸化していることが多いです。後見人が適切に業務を行っているかどうかをチェックする仕組みが不十分で、不正や不適切な行為が発覚しにくい状況があります。また、家庭裁判所が後見人の選任や監督に十分な時間とリソースを割いていないことも問題です。
2.5 親族後見人と専門職後見人の対立
成年後見制度では、親族が後見人になるケースと、専門職(弁護士や司法書士)が後見人になるケースがあります。親族後見人は本人との信頼関係が築きやすい一方で、専門知識が不足していることがあります。一方、専門職後見人は法律や財産管理の知識は豊富ですが、本人との関係性が希薄で、本人の意思を尊重しないことがあります。このため、親族後見人と専門職後見人の間で対立が生じることがあります。
3. 改善策の提案
成年後見制度の問題点を解決するためには、以下のような改善策が考えられます。
3.1 後見人の権限を制限する
後見人の権限が強すぎることが問題となっているため、後見人の権限を適切に制限する仕組みが必要です。例えば、重要な財産処分や医療決定については、家庭裁判所の許可を必要とするなど、チェック機能を強化することが考えられます。
3.2 本人の意思を尊重する仕組みの強化
本人の意思を尊重するためには、後見人が本人と十分なコミュニケーションを図り、本人の意向を把握する努力が必要です。また、本人の意思を確認するための第三者機関を設けることも有効です。例えば、本人の意思を確認するための「意思確認支援者」を配置し、後見人の決定が本人の意向に沿っているかをチェックする仕組みを導入することが考えられます。
3.3 費用負担の軽減
後見制度の費用負担を軽減するためには、報酬体系の見直しが必要です。特に、低所得者や資産が少ない人に対しては、報酬を減額したり、公的支援を拡充したりすることが求められます。また、後見人報酬の透明性を高め、不当な報酬請求を防ぐ仕組みも必要です。
3.4 家庭裁判所の監督機能の強化
家庭裁判所が後見人の業務を適切に監督するためには、監督体制を強化する必要があります。例えば、後見人の業務を定期的にチェックするための専門チームを設置したり、後見人に対する研修を義務付けたりすることが考えられます。また、市民からの通報を受け付ける窓口を設け、不正や不適切な行為を早期に発見する仕組みも重要です。
3.5 親族後見人と専門職後見人の連携強化
親族後見人と専門職後見人の対立を解消するためには、両者が連携して業務を行う仕組みを導入することが有効です。例えば、親族後見人が本人の日常生活を支援し、専門職後見人が財産管理や法律行為を担当するなど、役割分担を明確にすることが考えられます。また、親族後見人に対して専門知識を提供するサポート体制も必要です。
まとめ
成年後見制度は、判断能力が不十分な人を保護するための重要な制度ですが、現状では多くの問題を抱えています。後見人の権限濫用、本人の意思軽視、費用負担の重さ、監督機能の不十分さなど、さまざまな課題が指摘されています。これらの問題を解決するためには、制度の抜本的な見直しが必要です。特に、本人の意思を尊重し、後見人の権限を適切に制限する仕組みを導入することが重要です。また、家庭裁判所の監督機能を強化し、不正や不適切な行為を防ぐためのチェック体制を整備することも求められます。
成年後見制度は、本人の尊厳と権利を守るための制度であるべきです。そのためには、制度の運用に関わるすべての関係者が、本人の意思を尊重し、適切な支援を行うことが不可欠です。今後の制度改革に期待したいと思います。